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東京都心の中古マンションでは価格調整が始まっている。ただし、現時点では価格水準の高い港区と、夏の高値から下落した千代田区に限られる。より広く見られるのは、売出件数が一年で七〜八割増えた一方、賃料はほぼ動いていないという変化だ。区分マンション投資家が利回りの改善を目指すには、価格交渉が頼りとなる。
メッシュ分析のレポートが捉えた変化
11月7日、ゴールドオンラインは、不動産テック調査機関のつくる総研による『都内中古マンション市場調査レポート(2026年7〜9月期)』を転載した。同レポートは、東京都内を250メートル四方の12,939のメッシュに分け、各メッシュの半径800メートル以内にある、築1年以上30年以内、専有面積40㎡以上のRC・SRC造マンションを対象に、売出㎡単価の平均値を算出した。
メッシュごとの単純平均では、2026年7〜9月の売出単価は前期比1.6%上昇(中央値1.0%)、前年同期比13.1%上昇(中央値12.7%)となった。大半の地点ではなお上昇しているものの、前期比で下落したメッシュが目立って増えている。前年比でも、千代田区、港区、目黒区などの都心部で前年を下回る地点が見られた。レポートは、市場が「全面的な値上がり」から「物件の選別」へ移行しつつあり、条件が劣る物件や割高な物件から、売り手が買い手に譲歩する局面に入ると見ている。
ただし、このレポートが用いているのは売出価格であり、成約価格ではない。同じメッシュ内でも築年数や間取りの構成変化は調整していない。価格上昇の勢いが弱まっていることは読み取れるが、個別の住戸の価値がどれだけ下がったかまでは分からない。
成約データには、一足早く変化が表れている。ダイヤモンド不動産研究所がまとめた東日本不動産流通機構(REINS)のデータによると、2026年9月の東京都の中古マンション成約価格は6,728万円で、前年同月比3.3%下落し、二カ月連続で前年を下回った。一方、同月の売出価格は前年同月比11.3%上昇し、8,999万円に達した。売り手の希望価格と買い手が実際に支払う価格の隔たりは、なお広がっている。
区別の動向:港区は下落、千代田区は高値から反落、目黒区はなお上昇
メッシュ分析で確認された「前年割れ」は、個々の地点での動きだ。ここではUrbalytics市場レポートの区別月次データを用い、三区の売出㎡単価の中央値が過去一年でどう推移したかを見る。
港区:2025年10月は249.2万円、2026年7月は249.1万円だったが、2026年10月には234.6万円(1,576件)へ下落。前年同月比で約5.9%低下した。
千代田区:2025年10月の187.4万円から、2026年7月には243.7万円に上昇したが、10月には215.7万円(366件)へ反落した。前年同月比ではなお約15%高いものの、7月からは約一割下がっている。
目黒区:127.3万円、157.5万円、164.8万円(520件)と、上昇が続いている。参考として、東京都全体は93.6万円、109.7万円、118.5万円だった。

三区で動きが異なる理由は明確だ。港区の単価はもともと東京都平均の約二倍に達しており、金利上昇で買える層が真っ先に減る。千代田区は標本数が少なく、前年10月はわずか198件だった。売出物件の面積中央値も45.1㎡から51.1㎡に変わっている。前年比は物件構成の影響を受けやすく、「7月の高値からの反落」に着目する方が確かだ。目黒区の単価は港区の七割程度にとどまり、実需のファミリー層による購入が続いている。
したがって、「都心で値下がりが始まった」という見方は、範囲を絞る必要がある。下落しているのは港区全体と、夏の高値から反落した千代田区であり、目黒区では現時点で一部の地点が弱含むにとどまる。
価格以上に明確な変化:売出件数は一年で七〜八割増
価格の中央値は物件構成に左右されるが、売出件数の変化はより直接的に捉えられる。2026年10月の港区の中古マンション売出件数は1,576件で、前年同月の864件から82.4%増えた。千代田区は198件から366件へ84.8%増、目黒区は306件から520件へ69.9%増となった。東京都全体では12,095件から17,645件へ45.9%増えている。

三区の売出件数の増加率は、都全体を二十数〜四十ポイント近く上回る。値下げもすでに起きている。Urbalyticsの値下げ追跡データによると、2026年8月の港区では700件の中古マンションが売出価格を引き下げ、値下げ率の中央値は4.0%だった。千代田区は136件で中央値4.4%、目黒区は220件で中央値3.5%となっている。
買い手にとっては、交渉条件が変わったことを意味する。比較対象となる類似物件は一年前より大幅に増えた。売り手は「近隣で直近に成立した高値の取引」だけを根拠に、希望価格を維持することは難しくなっている。
Urbalyticsのデータから読む
同じ区の価格中央値でも、物件構成によって上下する。一方、売出件数や値下げ件数は、その影響を受けにくい。都心市場の転換を見極めるには、まず売出件数と値下げの動きを確認し、その後に単価を見る順序が堅実だ。各区の月次データは、港区の中古マンション市場レポートなどの区別ページで確認できる。
賃料は追いつかず、利回り改善は購入価格次第
区分マンション投資家にとって、価格の軟化が好材料かどうかは賃料次第だ。Urbalyticsの賃貸募集データから、三区の専有面積40㎡以上、1996年以降竣工のマンションの募集情報を集計した。管理費を含む月額坪単価の平均値を、初めて観測した四半期別に比較する。
港区は2025年7〜9月の2.47万円から、2026年7〜9月には2.41万円へ2.4%下落した。千代田区は2.03万円から2.04万円へと、ほぼ横ばい。目黒区は1.75万円から1.85万円へ5.7%上昇した。2025年の四半期ごとの標本数は24〜90件にすぎず、特に千代田区は参考値にとどまる。それでも、都心のファミリー向けマンション賃料に目立った上昇がないという傾向は共通している。

両者を合わせて見ると、港区では価格と賃料がともに小幅に下落している。一方、千代田区と目黒区は価格の上昇率が賃料を大きく上回る。この二区でこの一年に購入した物件の利回りは、一年前より低くなっている。
一棟賃貸物件の売出データも、同じ地域の利回り水準を知る参考になる。港区の一棟収益物件の表面利回り中央値は、2025年10月の3.00%(35件)から、2026年10月には3.55%(42件)に上昇した。目黒区も3.87%(48件)から4.03%(44件)へ上昇した一方、東京都平均は5.10%と5.11%でほぼ横ばいだった。両区の標本数は四十件程度で、一〜二棟でも中央値は動きうる。ただし、都心の利回りが回復する方向は区分マンション市場と一致する。

利回り回復の背景には資金調達コストがある。日本銀行は9月18日に政策金利を1.25%程度へ引き上げ、10月の会合では据え置いた。10年国債利回りは9月1日、約30年ぶりに3%を超えた。10月発行の10年国債の表面利率は3.1%に設定された。
港区の一棟物件の表面利回り中央値は、なお3.5%前後にとどまる。管理費、修繕費、空室損失を差し引いた実質的な利回りはさらに低く、借入による購入でプラスのレバレッジ効果を得られる余地はほとんどない。賃料が上がらない前提では、利回りが資金調達コストに見合う水準となるには、価格の一段の調整を待つほかない。
いま都心の区分マンションを買うなら、価格交渉はどこから始めるか
港区と千代田区の売出価格は高値を離れたものの、割安と呼べる水準にはまだ遠い。現実的なのは、交渉の基準を「直近の高値成約」から「同じ建物や街区の現在の募集賃料」へ移すことだ。ファミリー向け物件なら、まず同じ建物の直近の募集賃料単価に面積と12カ月を掛け、売出価格で割って表面利回りを求める。それを現在の借入金利と比較し、差が小さいほど、売り手に値下げを求める根拠は強くなる。
売出件数が八割増えた今、売出期間が長く、すでに一度値下げした物件は、買付を入れる有力な候補になる。8月に港区で値下げした700件の値下げ率中央値は、わずか4.0%だった。多くの売り手は、まだ小幅な引き下げで反応を探っているように見える。売出期間が三カ月を超えても夏の価格を維持している物件について、買い手が同じ程度の値下げ幅で応じる必要はない。
目黒区の状況は異なる。価格はなお上昇し、賃料も5.7%上がっており、値上がりを実需が支えている。ただし、この一年の価格上昇率は賃料を大きく上回り、現在の価格で購入した場合の利回りは一年前より低い。投資家には、高値を追うよりも、売出物件がさらに積み上がるのを待つ方が適している。
今回の調整は金利を起点としており、今後も金利に左右される。日銀の次の利上げ時期と、長期金利が3%前後で安定するかどうかが、都心の価格がさらに下落するか、現在の水準で横ばいになるかを決める。
データについて
区別の価格と売出件数は、Urbalytics市場レポートの区分マンション月次集計による。価格は売出価格の中央値で、成約済み物件の売出記録も含む。区内の全築年数・全専有面積を対象としており、築30年以内、40㎡以上に限定するつくる総研とは集計条件が異なるため、騰落率を直接比較することはできない。売出件数は当月に売り出されていた物件数であり、成約件数ではない。値下げ件数と値下げ率は、同ページの値下げ追跡データ(2026年8月)による。
賃料はUrbalyticsの賃貸募集データにおける募集賃料(管理費込み)であり、成約賃料ではない。標本は初回観測日によって四半期に分類している。2025年の各四半期の標本数は2026年より明らかに少なく、四半期平均も物件構成の影響を受ける。一棟物件の利回りは売出価格から算出した表面利回りで、費用を控除していない。年間収入は満室想定の場合と現況収入の場合がある。
各区の月次推移を詳しく確認するには、東京都市場レポートを参照されたい。都心からの値下げの広がりについては、これまでに値下げは都心・湾岸から、勝どきでは六割近くが値下げと、1億円前後の物件で値下げが最多、5,000万円以下はほぼ動かずで分析している。
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参考資料
ゴールドオンライン(Yahoo!ニュース)、2026年、都内中古マンションで前年割れ地点が増加中。2026年夏、都心エリアから始まった「価格調整」のリアル
ダイヤモンド不動産研究所、2026年、9月の東京都の中古マンション価格・市況は、成約価格6728万円で2カ月連続の前年割れ
熊本日日新聞(共同通信)、2026年、日銀利上げ、1・25%に ペース最短3カ月に加速
三井住友DSアセットマネジメント、2026年、2026年10月日銀政策会合レビュー
熊本日日新聞(共同通信)、2026年、10年物国債、利率3・1% 金利上昇、30年ぶり高水準
Urbalytics、2026年、千代田区の区分マンション市場レポート、目黒区の区分マンション市場レポート、港区の一棟収益物件市場レポート
カバー画像:イメージ(Photo: Ryusei Machida / Unsplash)
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