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船堀駅近くの築34年の旧社員寮が、解体せずに80戸の賃貸住宅と地下1階・地上1階の店舗に改修される。周辺で築古物件を保有するオーナーが見極めたいのは、耐震性能や設備を新築並みに改修したとき、賃料が新築にどこまで近づくかだ。それによって、建て替えではなく改修を選ぶことで見込む増収を、実際に得られるかが決まる。
船堀駅徒歩3分、社員寮を賃貸80戸と店舗11区画へ
健美家の2026年11月2日の現地報道によると、この旧社員寮は都営新宿線の船堀駅徒歩3分に位置し、敷地面積は約2,340㎡、SRC造の地下1階・地上6階建て。改修後は地下1階と地上1階を店舗とし、計11区画のうち4区画でテナントが決まっている。2階以上は80戸の賃貸住宅となり、内訳は1LDKが38戸、2LDKが32戸、3LDKが10戸。間取りは19種類に及ぶ。2026年10月時点では、躯体だけを残すスケルトン状態まで解体されていた。
設計を手がける今野広大再生設計によると、改修予算は解体・建て替えの約七〜八割、工期は約10か月。解体から建て替えまでには通常一年半〜二年を要するため、従前の入居者が退去した後の空室期間を短縮できる。
この建物は新耐震基準で建てられているが、現行の計算方法で再検証した結果、構造耐震指標のIs値が0.6以下となったため、耐震補強を実施した。SRC造は躯体内に鉄骨があり、あと施工アンカーを深く打ち込みにくい。そこで、浅い埋め込みでも強度を確保できるディスクシアキー工法を採用し、新築と同等の耐震性能の確保を目指している。

なぜ建て替えないのか:面積、空室期間、融資
設計者の説明では、収益に直結する点が三つある。第一は賃貸可能面積だ。一部地域では容積率の規定が変わっており、建て替えると現在より小さな建物しか建てられない可能性がある一方、改修なら既存の面積を維持できる。第二は空室期間。10か月と一年半〜二年の差は、賃料収入のない期間の短縮につながる。第三は融資だ。設計者によると、改修後に耐久性・耐震性能の評価書、修繕履歴、検査済証をそろえることで、過去には築47年の建物で金融機関から35年の融資を受けた例があるという。
ただし、第三の点は設計者が紹介した過去の事例であり、本件で確保された融資条件ではない。改修によって評価や融資の面でも「新築に近い」と扱われるかは、評価書の内容と金融機関の実際の審査による。
店舗収益に関わる変更もある。外部に閉じたつくりだった社員寮の中央部を開き、通り抜け通路と中庭を設ける。住宅のエントランスは中庭脇に配置し、店舗は街路に開く計画だ。各階にあった共用トイレや洗濯室はラウンジやワークスペースに、地下の大浴場は共用ラウンジに改修する。こうした共用部が賃料を支えられるかは、募集結果を待つ必要がある。
市場データで見る築古・築浅の賃料単価差
改修後の賃料の上限を考えるうえで、最も直接的な比較対象は、同じ駅勢圏にある築古・築浅物件の募集単価だ。Urbalyticsのデータによると、船堀駅徒歩10分以内、直近12か月の賃貸募集では、単価差は間取りによって異なる。
1LDK(1999年以前竣工):9件、月額募集賃料の中央値14.0万円、賃料単価の中央値0.288万円/㎡、平均面積約47㎡。
1LDK(2020年以降竣工):26件、月額募集賃料の中央値15.8万円、賃料単価の中央値0.322万円/㎡、平均面積約48㎡。
2LDK(1999年以前竣工):10件、月額募集賃料の中央値13.4万円、賃料単価の中央値0.242万円/㎡、平均面積約56㎡。
2LDK(2020年以降竣工):36件、月額募集賃料の中央値19.85万円、賃料単価の中央値0.371万円/㎡、平均面積約54㎡。
1LDKの築古・築浅の単価差は約12%、2LDKでは約53%となる。約55㎡の2LDKで計算すると、両者の単価中央値による月額賃料の差は約7.1万円となる。つまり、この建物では32戸ある2LDKの賃料がどちらの水準に近づくかが、38戸の1LDK以上に総収入の差を生む。

この差は、同じ時期に募集された異なる建物を比較したものであり、改修による賃料上昇幅を試算したものではない。築浅のサンプルは直近二年間に竣工した数棟に集中し、築古の1LDKは大半が同じ1棟の物件で、件数も少ない。いずれも参考値にとどまる。改修後の社員寮の賃料が二つの中央値の間のどこに位置するかは、設備、間取り、共用部が入居者に新築並みと評価されるかによる。現時点では、それを判断できる成約データはない。
一棟物件の利回りが周辺の築古オーナーに示すもの
同じ駅勢圏の一棟賃貸物件の売出価格は、改修による評価額を考える際の参考になる。Urbalyticsのデータによると、直近12か月の船堀駅周辺の一棟売出物件は、重複を除くと16棟で、表面利回りの中央値は5.62%、下位四分位(P25)は5.08%、上位四分位(P75)は6.94%、売出価格の中央値は1.6億円だった。江戸川区の一棟収益物件の月次相場によると、2026年9月の区全体の一棟物件の表面利回りは5.27%だった。

これらのサンプルは、建物面積が主に150〜400㎡の小規模な一棟物件であり、80戸の旧社員寮とは規模が異なるため、本件の価値の推計には使えない。周辺のオーナーにとっては、むしろ参考になる。同じ利回りなら、賃料単価が上がれば評価額も比例して上がる。保有する築古物件の単価を、補強や改修によって築古の水準から築浅の水準へ近づけられれば、増えた賃料は売却価格に直接反映される。それができなければ、改修費は保有期間を長くして回収するしかない。
以前、葛飾区の築40年の住戸を360万円で改修し、月額賃料が5万円上がった事例では、住戸単位の改修費を回収する考え方を取り上げた。今回の船堀の事例は、一棟全体を改修し、耐震性能、間取り、店舗配置を同時に変える点が異なる。
区役所移転は2033年以降、現時点の評価に織り込む必要はない
報道では、今後の船堀への区役所移転にも触れている。江戸川区は2025年12月23日、新庁舎を「船堀四丁目地区第一種市街地再開発事業」で建設し、地上21階、高さ約99m、延べ床面積約61,330㎡とする計画について、開庁目標を2033年1月〜6月へ変更したと発表した。前回公表から2年〜2年5か月の延期となる。工事施工者が決まらず、再選定が必要になったためだ。東京都都市整備局の資料によると、同じ再開発の民間棟は延べ床面積約58,500㎡で、約400戸の住宅を含む。
賃貸経営にとって、この動きには二つの側面がある。区役所や商業施設は駅前の日常的な人通りを増やす一方、民間棟の約400戸の住宅は、賃貸市場で新たな競合にもなる。これは、門前仲町の大規模な新規供給が既存のファミリー向け賃貸に与える影響と同様の構図だ。開庁時期はすでに一度延期されているため、評価額は現在の賃料と利回りで算定し、区役所移転は2033年以降の観察項目としておくのが妥当だ。
船堀周辺の築古オーナーがまず確認したい三つの点
まず、現行の容積率で建て替えても、現在の面積を維持できるかを確認したい。建て替えで面積が減るなら、この事例と同じ考え方が成り立つ。減らないのであれば、解体・建て替えも引き続き比較対象となる。
次に、耐震診断のIs値と採用できる補強工法を確認する。SRC造でも補強は可能だが、工法と費用によって、改修予算が本当に建て替えの七〜八割に収まるかが決まる。
最後に、前述の単価帯を使い、改修後の賃料に上限と下限を設定する。2LDKは築古・築浅の単価差が約53%あり、改修によって収入差が最も生じやすい間取りである一方、募集結果による検証が特に重要になる。船堀の社員寮が正式に募集を始めた後の実際の賃料が、最初に照合できる数値となる。
データについて
賃料データは、Urbalyticsが収録したREINSの賃貸募集情報(2025年11月2日〜2026年11月2日に初めて観測したもの)。船堀駅徒歩10分以内、区分マンションの分類を対象に、間取りと竣工年で抽出した。賃料は管理費を含まない募集賃料であり、成約賃料ではない。一棟物件の利回りは、同期間の船堀駅周辺の売出情報に基づく。表面利回り=掲載年間収入÷売出価格で、年間収入が満室想定か現況収入かは掲載者によって異なり、純キャッシュフローを示すものではない。
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参考資料
健美家、2026年、「江戸川区船堀、築34年の社員寮を80戸の賃貸住宅+テナントに改修。本格的に使い続ける時代の到来か」、https://www.kenbiya.com/ar/ns/for_rent/renovation/10664.html
江戸川区、2025年、「区役所新庁舎の開庁までのスケジュールと工事費について」(プレスリリース、2025年12月23日)、https://www.city.edogawa.tokyo.jp/e004/kuseijoho/kohokocho/press/2025/12/1223-1.html
東京都都市整備局、「船堀四丁目地区第一種市街地再開発事業」、https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/cpproject/field/funabori/saikaihatsu23-7.html
Urbalytics、2026年、「東京都江戸川区の一棟収益物件相場」、https://www.urbalytics.jp/market/area/tokyo/edogawa-ku/building
アイキャッチ・本文写真:タワーホール船堀(Photo: しんぎんぐきゃっと / CC BY-SA 4.0, Wikimedia Commons)
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