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相模原駅の一棟収益物件の表面利回り(中央値)は7.07%。北口開発はまだ相場に織り込まれておらず、ボトルネックは最大1,174億円に達する高架化コストだ。
首都圏で、JR駅の出入口の目の前に約15ヘクタールの建物がほとんどない更地が残るケースは多くない。神奈川県相模原市のJR横浜線・相模原駅北口がまさにそれだ。
この用地はもともと在日米軍の相模総合補給廠に属しており、2014年の一部返還後、開発方針の決定を待ち続けてきた。2025年8月、相模原市がようやく土地利用計画を提示。さらに今週、健美家の報道によれば、市はJR横浜線・相模原駅周辺で「連続立体交差」、すなわち鉄道高架化の予備調査を開始した。
駅前の大規模な更地と、Urbalyticsのデータで横浜線沿線トップの利回りかつ最安の価格水準という現実。両者は一つの論点に収れんする——この土地の価値は、道路と動線が開通するかどうかに依存する。
1. 米軍補給廠から駅前更地へ:北口が12年間待たされた理由
相模総合補給廠は在日米軍の本土における大型ロジ拠点で、相模原駅北側に隣接する。2014年に約17ヘクタールが一部返還され、道路・鉄道用地を差し引いた開発可能地は約15ヘクタールとなった。
返還後、開発計画は紆余曲折を重ねた。市が当初掲げた「広域交流拠点」施設は実現性の問題から頓挫。2020年5月に「まちづくりコンセプト」を改定、2022年5月に土地利用方針を策定し、2024年7月から民間事業者の提案募集を開始した。
そして2025年8月、「相模原駅北口地区土地利用計画」が正式に公表され、同年10月28日には市長が土地所有者である財務省関東財務局へ直接提出した。これにより、北口は「用途議論」から「土地処分の協議」段階へと移行した。

計画は北口を複数の機能ゾーンに区分し、規模感も具体化している。
居住優先ゾーンは敷地北西側に配置し、中層の集合住宅を中心に、戸数目標は800~1,000戸。スーパー、クリニック、保育施設との複合化も検討する。
商業優先ゾーンは線路沿いに配置し、低層主体で延床目標は6万~10万平方メートル。駅の南北を一体の商業フロントとして結ぶ狙いだ。
業務優先ゾーンは駅前および南北道路沿いに配置し、中層主体で延床目標は3万~6万平方メートル。加えて、駅西側への新改札設置の検討や、地区全体の「ゼロカーボン」化も掲げる。
2. データ:横浜線で利回り最高・価格最安の駅
計画がどれだけ精緻でも、市場が先回りして織り込んでいるかはデータで見る必要がある。UrbalyticsでJR横浜線沿い4駅の直近12カ月の売り出しデータを取得し、徒歩15分圏に限定して比較した。
一棟収益物件の表面利回り(中央値)は、相模原駅が7.07%(サンプル30件)で、淵野辺駅の6.81%、橋本駅の6.20%、町田駅の6.00%を上回った。建物面積当たりの坪単価では、2026年の相模原駅平均は約119.4万円と、橋本駅の168.6万円、町田駅の179.1万円を大きく下回る。
一方、賃料水準は大差がない。賃貸マンションの月額平米単価(中央値)は相模原駅が2,554円(サンプル292件)で、橋本駅の2,382円をやや上回り、町田駅の2,923円に対しても約13%低いにとどまる。

この3指標を並べると結論は明快だ。相模原駅の賃料は弱くなく、割安なのは資産価格そのもの。区レベルのデータとも整合する——Urbalyticsのマーケットレポートでは、2026年9月の相模原市中央区の一棟収益物件の坪単価中央値は93.2万円で神奈川県平均比31.1%安。区分マンションの平米単価は35.8万円で、同じく県平均比31.3%安だ。
Urbalytics インサイト Urbalyticsのデータでは、相模原駅周辺の賃料水準は橋本駅と同等かやや上回る一方、一棟物件の坪単価は約3割安い。北口開発に対する市場の現時点の評価はほぼゼロで、好機であると同時に、開発タイムラインへの慎重姿勢も示唆する。なお一棟物件のサンプルは20~30件と限定的で、参考値として扱いたい。
3. なぜ高架化が再浮上したか:1本の道路では日5万台を捌けない
用地も計画も整いつつあるのになぜ鉄道高架化が必要か。答えは交通にある。
2018年度時点では、市の見立ては、北口開発に伴う交通量は都市計画道路・宮下横山台線を4車線化すれば処理可能であり、高架化は補給廠全面返還後の長期課題とされていた。
しかし2023年度の交通量調査では、周辺で既に渋滞が確認された。現行の土地利用計画に基づく北口地区の発生集中交通量は約2.4万台/日、宮下横山台線の将来交通量は約5万台/日と見込まれる。市は、4車線化しても北口開発後の交通を捌き切れない可能性が高いと判断した。
制度面のハードルも下がった。従来は国庫補助の要件を満たすため、高架区間を小原踏切まで延伸する必要があったが、2021年度に相模原踏切が「歩行者ボトルネック踏切」に認定されたことで、検討区間は矢掛立体交差から西門踏切までに縮小可能となり、小原踏切は別途アンダーパスで個別対応できる見通しとなった。

市は高架化を基本案として選好する。理由は、相模原踏切と小山踏切の2カ所の平面交差を一括で解消でき、既成市街地での用地取得を抑制できるうえ、駅南北の歩行動線の一体化が図りやすいためだ。
ただし費用は小さくない。試算では、道路をアンダーパス化する案が約651億円、鉄道高架化は施工方式により約744億~1,174億円を要する。
コスト差の要因は施工方式だ。補給廠側の敷地を活用して別線の高架を先行整備する「別線方式」は比較的安価だが、防衛省・米軍との協議が前提となる。現在線上に直上高架を構築する場合は費用が大幅に膨らむ。
4. 投資家への示唆:青写真よりもスケジュールが重要
これこそ北口開発で誤解されやすい点だ。見出しの「高架化」「15ヘクタール」「商業施設10万㎡」は魅力的だが、市が示す工程表ははるかに冷静である。
土地利用計画(概要版)の工程表によれば、計画の具体化と都市計画決定までに5~8年を要し、その後に土地処分、民間開発にさらに1~3年。周辺道路網など基盤整備の期間は「おおむね10~20年」と記載されている。
今回の高架化予備調査は2026年度に実施されるが、高架化そのものは未決定であることを市は明言している。2026年度以降、JR東日本、国土交通省、交通管理者、さらに防衛省・米軍との協議に入る。
保有型投資家にとって、これは二つの全く異なるアプローチを意味する。
第一に、目標がキャッシュフローなら、相模原駅周辺の一棟物件で約7%の表面利回りは横浜線沿線でも高水準で、賃料も支えがある。北口開発は「付随するオプション」に過ぎず、その分を上乗せして買う必要はない。
第二に、開発プレミアムを狙うなら長期保有の覚悟が要る。北口の商業・業務施設の稼働や南北動線の完全接続は、楽観的に見ても十年単位の話で、先行して高値で買う意味は乏しい。
リスク提示 高架化は予備調査段階にあり、物価上昇を踏まえ事業費は再試算となる可能性がある。防衛省・米軍との協議結果は施工方式とコストに直結する。最終的にアンダーパス案へ変更、あるいは意思決定が先送りになれば、北口開発の規模やスケジュールは縮小・遅延する恐れがある。開発プレミアムに賭ける投資家は十分な安全余裕を確保したい。
結語:まずキャッシュフロー、次に北口
相模原駅北口は首都圏では珍しい「駅前の大規模更地」。計画は既に国へ提出され、鉄道高架も予備調査に入った。しかしデータが示す通り、市場は今のところこのストーリーにプレミアムを払っていない。一棟物件の利回りは沿線最高水準で、坪単価は県平均より3割安のままだ。
この乖離自体がシグナルである。安定的なリターンを重視し長期保有を厭わない投資家にとって、相模原駅周辺はウォッチリストに加える価値がある。一方、「開発コンセプト」で短期益を狙う向きは、まずタイムラインを厳密に見積もるべきだ。
相模原市中央区の利回りや坪単価の月次推移は、Urbalyticsの相模原市中央区一棟収益物件マーケットレポートおよび相模原市中央区区分マンション・マーケットレポートを参照されたい。
同様に公有地転用が牽引する首都圏西部の開発事例として、過去の八王子南口「桑都の杜」分析も併せてご覧いただきたい。
新駅計画に関連するエリアについては、新座市・大江戸線延伸の新駅分析を参照されたい。
Urbalytics上で駅・徒歩分数・築年数などで一棟物件の売出データを絞り込み、まず利回りの妥当性を確認し、そのうえで開発による上振れ余地を検討する——現時点ではこの順序がより堅実だ。
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参考文献
- 健美家, 2026年, 「JR横浜線・相模原駅で高架化を検討へ。北口15ヘクタールの開発を支える都市基盤となるか」, https://www.kenbiya.com/ar/ns/region/shutoken/10532.html
- 相模原市, 2025年, 「相模原駅北口地区土地利用計画【概要版】」, https://www.city.sagamihara.kanagawa.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/033/744/tochiriyoukeikaku_gaiyou.pdf
- 相模原市, 2025年, 「相模原駅北口地区土地利用計画」, https://www.city.sagamihara.kanagawa.jp/shisei/1026823/koikikoryu/sagamihara/1028021/1033744.html
- 相模原市, 2025年, 「相模原駅北口地区土地利用計画を国(関東財務局)に提出します」(発表資料), https://www.city.sagamihara.kanagawa.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/033/937/1017/02.pdf
- Urbalytics マーケットレポート, 2026年, 「神奈川県相模原市中央区の一棟収益物件相場」, https://www.urbalytics.jp/market/area/kanagawa/chuo-ku/building
- Wikimedia Commons, 「Sagami General Depot 201909-1.jpg」「Sagami General Depot 201909-4.jpg」(CC BY-SA 4.0), https://commons.wikimedia.org/
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