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供給戸数が全国第19位にとどまるデベロッパーが南青山に1戸25億円の住戸を造ったとき、都心の競争原理は「何戸売るか」から「どの場所を押さえるか」へと完全にシフトした。
日本の不動産業界では、ほぼ毎年のように参照される指標がある――売主別の分譲マンション供給戸数(供給戸数)ランキングだ。ところが2026年7月31日に『東洋経済』が掲載した一本の報道は、このランキングの意味を丸ごと覆した。ランキングで全国19位に過ぎない一社が、東京・南青山で最高価格が25億円に達するタワーを建設中だという。長年「規模」で日本のデベロッパーの実力を測ってきたクロスボーダー投資家にとって、これは認識の再校正を迫る出来事だ。

1戸25億円のタワーは、乃木坂駅の地下出入口に直結
物件名は「Brillia Tower 乃木坂」。地上27階、竣工予定は2028年1月、開発は総合不動産デベロッパーの東京建物。注目すべきは階数ではなく立地だ。建物全体が東京メトロ千代田線・乃木坂駅の地下連絡出入口に直結し、周囲には東京ミッドタウン、国立新美術館、青山公園が広がる。
市場を驚かせたのは価格だ。『東洋経済』の報道によれば、最高価格の住戸は176平方メートルの3LDKで25億円。日本市場で慣用の坪単価に換算すると、約坪4,700万円――もはや「高い」の一語ではなく、「都心一等地の希少性はいくらで評価されるのか」を問う公開プライシング実験に近い。
クロスボーダーの買い手にとって、この種の住戸の意味は自用可能性ではなく、エリア全体の価格上限に杭を打つことにある。いったん25億円という水準が南青山で受け入れられれば、同一駅圏の既存タワー群で従来「高値」と見なされてきた物件の評価ベンチマークは一段切り上がる。

供給戸数19位の「メジャーセブン」:リーマン後の転換
日本のマンション業界には「メジャーセブン」という呼称があり、住友不動産、野村不動産など主要な分譲マンションデベロッパー7社を指す。東京建物もその一角だ。だが不動産経済研究所が集計した2025年の売主別供給戸数ランキングでは、東京建物は1,054戸で全国第19位、7社の中で最少だった。
差は大きい。ランキング首位のオープンハウスグループは6,597戸、2位の野村不動産は3,190戸で、いずれも東京建物の3倍超。従来の業界ストーリーでは、これはほぼ「出遅れ」に等しい。
しかし、東京建物の専務 住宅事業本部長・秋田秀士氏は別のロジックを示す。報道によれば、同社は供給戸数に執着しない。かつては戸数拡大を目標としていたが、2008年のリーマンショックが転機となったという。
理屈は単純だ。戸数目標が先行すると、駅から遠い、条件に難のある土地にも手を出しがちになる。結果として案件の採算は苦しくなり、コスト圧縮のために品質を落とせば、長年積み上げてきた「Brillia(ブリリア)」ブランドも毀損する。つまり、規模を追わないのは受動的な縮小ではなく、資源をブランド・プレミアムを支え得る少数の土地に能動的に集中させる選択だ。
Urbalyticsデータで見る乃木坂:賃料は堅調、一棟物のプライシングは後退
一等地の住宅が25億円で売れるなら、このエリアの賃貸・利回り面も同様に強いのか。Urbalyticsプラットフォームの社内データでクロスチェックしたところ、結論は想像以上にレイヤーが分かれていた。

まず賃料。Urbalyticsが収録する乃木坂駅圏の賃貸マンション標本は計93件、平均月額34.4万円、平均専有面積51.95平方メートル。換算した平均坪賃料は約2.02万円/坪・月。2025年3Qから2026年3Qにかけてこの指標は累計で+2.54%上昇し、途中2026年1Qに2.12万円で高値を付けた後に小幅反落――全体としては「高位横ばい・やや上昇」の形で、超高級エリアの賃貸需要が価格に押し出されていないことを示す。
Urbalytics インサイト Urbalyticsの社内データは、見落とされがちな分化シグナルも示す。乃木坂駅圏の賃料坪単価は4四半期累計+2.54%だが、隣接する六本木駅圏の一棟物(一棟)平均坪単価は同期に-6.91%。同じ港区コアでも、賃貸サイドと売買サイドは逆方向に動いている――これは、成約ニュースだけを見て内部成約・販売中サンプルを見ない投資家が最も踏み外しやすいポイントだ。
次に収益面。六本木駅圏の一棟物サンプルは19件で、表面利回り(表面利回り)の中央値3.39%、平均3.28%。レンジは1.20%〜4.41%、平均総額は約15.3億円。中央値が3.4%未満ということは、このエリアの一棟アセットはすでにキャッシュフローではなく、土地の希少性と価値保全期待でプライシングされていることを意味する。
警戒すべきは価格トレンドだ。六本木一棟物の平均坪単価は2025年3Qの坪975万円から2026年1Qに坪780万円へ下落、その後2026年3Qに坪907万円へ戻したものの、4四半期累計ではなお-6.91%。住宅サイドが価格上限を更新する同時期に、商業系の一棟は実はプライシングが後退している――両者は資金ソースもファイナンス条件も異なり、相互に代入はできない。

乃木坂から八重洲へ:同社のもう一つの柱
東京建物が「戸数は追わない」と言い切れる背景を理解するには、視線を住宅から再開発に移す必要がある。同じ記者の先行報道によれば、東京建物が関与する最大規模の再開発プロジェクト「TOFROM YAESU(トフロム ヤエス)」は2026年に街区全体が完成した。
規模感は直感的だ。地上51階のTOFROM YAESU TOWERは2月末に竣工、地上10階のTHE FRONTは7月に竣工。2棟合計の延床面積は約23.7万平方メートル、総事業費は東京都都市整備局資料によれば約2,400億円。オフィスや会議施設だけでなく、約800席の劇場、日本医科大学の医療施設、京王電鉄バスが運営するバスターミナルも内包する。
より重要なのは資金投下のテンポだ。東京建物は2025〜26年の2年間で、TOFROMを含む大規模再開発に約1,730億円を投資する計画で、今秋には本社もTOFROMに移転する。小澤克人社長はインタビューで、八重洲は江戸時代以来、商人と職人が集住し街区が細かく刻まれてきたエリアであり、今回の再開発でも「道は人が歩いてつくる」という市井の温度感をあえて残したと語る――投資の視点では、こうした街区個性の経営こそがオフィス・商業賃料を長期で平均超過に導くソフトアセットである。
住宅の一等地と東京駅前の再開発、二つの柱が揃って初めて、供給戸数19位の企業が1戸25億円という価格を打ち出せる理由が説明できる。
クロスボーダー投資家への3つの示唆
本件を分解して見たとき、真に移植可能なのは「東京建物がすごい」ことではなく、銘柄選定に直結するいくつかの判断軸だ。
まず修正すべきはデベロッパー評価の物差しだ。都心一等地では、供給戸数と商品力は明確にデカップリングしており、戸数ランキングで提携先や転売先をふるいにかけると、少数精鋭でブランド・プレミアムの高いデベロッパーを体系的に取り逃がす。
もちろん、機会の裏側にはリスクもある。
第一に、超高額住戸の価格発見は富裕層需要と流動性に強く依存する。25億円級の住戸のセカンダリーの買い手プールは極めて狭く、グローバルな高純資産層資金の風向きが変われば、この種のアセットのエグジット期間は明確に長期化する。
第二に、本稿が引用する『東洋経済』の原文は有料会員限定で、取得可能な公開部分は記事中で言及された関西・九州の展望をカバーしていない。地方市場を判断するなら、必ず原文とデベロッパーのIR資料に立ち返り、都心の結論を地方へ機械的に水平展開しないこと。
第三に、Urbalyticsの標本では2025年3Q・4Qの乃木坂賃貸データがそれぞれ1件と4件で参考値に留まる。トレンド判断は標本数が比較的充足する2026年各四半期を主とし、小標本のノイズに惑わされないこと。
結語:一等地のプライシング権は少数プレイヤーへ集約中
2026年の東京都心では、静かなパワーシフトが進んでいる。競争の勝敗は、もはや誰が多く売ったかではなく、誰が希少な立地でブランドと採算を守れたかで決まる。東京建物は1戸25億円のタワーと2,400億円の街区で、この変化を可視化した。
一方でUrbalyticsのデータは、このシフトが全面高ではないことを示す。賃料サイドと一棟売買サイドで方向が分かれており、両者を混同する判断が最も危うい。特定の駅圏の賃料相場や一棟の表面利回りがどちらの側にあるのかを事前に確かめたいなら、Urbalyticsのエリアデータと成約サンプル検索が数分で答えを出す。
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参考資料
- 東洋経済オンライン, 2026, 「東京建物『ブリリア』は供給戸数追わず一等地に集中…都内は『1戸25億円』の高額物件、関西や九州には伸びしろも」(連載:マンション大異変 爆騰で進む優勝劣敗), https://toyokeizai.net/articles/-/953004?display=b ※有料会員限定記事(公開部分を引用)
- 東洋経済オンライン, 2026, 「東京駅前再開発『トフロム ヤエス』の総事業費は約2400億円…その成否は東京建物の企業価値をも左右する」, https://toyokeizai.net/articles/-/945591?display=b ※有料会員限定記事(公開部分を引用)
- 東洋経済オンライン, 2026, 「〈インタビュー〉東京建物の小澤社長が明かす『トフロム ヤエス』への期待と『ブリリアタワー乃木坂』に感じる予兆」, https://toyokeizai.net/articles/-/945350?display=b ※有料会員限定記事(公開部分を引用)
- 不動産経済研究所, 2025, マンション供給戸数 売り主別ランキング(東洋経済報道による引用値), https://www.fudousankeizai.co.jp/
- 東京都都市整備局, 八重洲一丁目東地区第一種市街地再開発事業 関連資料(総事業費 約2400億円の出典として東洋経済が引用), https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/
- 東京建物株式会社, 企業情報・IR資料(Brillia ブランド/大規模再開発投資計画), https://www.tatemono.com/
- Urbalytics 社内データ, 2026-07, 乃木坂駅圏 賃貸マンション賃料統計(n=93)/六本木駅圏 一棟ビル表面利回り統計(n=19), https://www.urbalytics.jp/




