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近年、日本各地の区分所有型マンションでは、管理組合の運営のバランス崩壊、情報の不透明化、財務の私的流用などの問題が頻発しています。中でも、東京・渋谷区にある老舗マンション「秀和幡ヶ谷レジデンス」は、その“独裁的”な運営手法から「渋谷の北朝鮮」と呼ばれ、管理危機の典型事例となっています。本稿ではこの事例を通じて2025年以降に頻出した管理組合の問題類型を整理し、大規模修繕でのキックバック、情報隠蔽、長期独裁、法改正の限界など、明確な回避策を提示します。
日本でマンションの一室を保有・取得しようとする投資家の方に向けて、本稿は「ガバナンス構造」が資産価値に与える実際の影響を理解する手助けをし、見た目は安定して見えても潜むリスクをどう見抜くかを案内します。
と呼ばれる「渋谷の北朝鮮」秀和幡ケ谷レジデンス
「秀和幡ヶ谷レジデンス」は京王線・幡ヶ谷駅から徒歩4分に立地する築古のマンションで、1974年築、世帯数が千戸規模にのぼる非常に典型的な老舗コミュニティ物件です。当該建物は、入居に管理組合の面接を課す、Uber Eatsを禁止する、共用部に多数の監視カメラを設置するなど、一連の極めて単純かつ粗雑な管理ルールを採用していたため「渋谷の北朝鮮」と非難されました。
このマンションの管理組合は過去25年にわたり、例外的に同一の理事長が長期間にわたって継続していました。25年にわたる温床化の結果、旧理事長の運営は不透明な独裁と批判され、住民は1200日を超える抗議運動を経てようやく「政権交代」を実現しました。

マンション管理に関連する主な争点
#1 管理体制の専制化・閉鎖化:不透明な“独裁”的管理体制を採用し、入居時の理事会面接から50台以上の監視カメラによる常時監視、Uber Eats禁止、親族宿泊に費用を課すなどの奇妙なルールが理事会の一方的な決定で導入され、住民に意思決定の機会がほとんど与えられていません。言論や参加の余地が著しく欠けています。
#2 資産・財務上の脆弱性:不合理な管理によりマンション資産価値が継続的に毀損され、住民の財産権が損なわれるほか、管理側が収支報告を開示しないなど財務情報の透明性を欠くため、資金運用への疑念と不信が生じています。
Urbalyticsで確認すると、この建物の多くは35〜45平米の1DK/2DKが中心で、近年の成約価格は約2,000万円前後、なかには1,500万円台で急売と見られるものもあります。新宿や渋谷区に近い好立地を考慮すれば、管理不備が資産に与える影響は明白です。

#3 繰り返す対立と解決困難:過度に厳しい規則は住民と管理側の対立を頻発させ、管理体制の交代が非常に困難になります。住民が長期の闘争を経て政権交代を果たしても多くの争点が残り、最高裁にまで至る例もあり、コミュニティの和と安定は長期にわたり損なわれます。

2025年以降に頻発する管理組合の事件
2025年に入ってから、日本各地の区分所有マンションで管理組合をめぐるトラブルが増加しています。地方の中小規模の築古マンションから東京都内の新興高層まで争点は様々ですが、根本はほとんどの場合、自治組織(管理組合)の機能不全と硬直化にあります。
大規模修繕でのキックバック問題
2025年2月には大阪で管理会社の社員が総額9億円に達する管理費を横領したことが発覚し、また2023年には新潟で理事長が11億円の修繕費を着服した事件がありました。
これらのような刑事事件に該当するケースのほかに、責任追及が難しい“グレーな運用”が広く存在します。最も多いのは、理事長や理事会メンバーと業者とのキックバック(裏取引)です。特に数億円規模に達する大規模修繕工事では、理事長や理事会が施工業者と共謀して1〜2%程度のリベートを受け取る事例が見られます。業者側から働きかける場合もあれば、理事長が逆に“返礼を約束する御用専門家”を探す場合もあります。
この種の行為が抑止されにくいのは、手口が陰湿で法的に犯罪と断定しにくい点にあります。しかし居住者の視点では信頼を損ない、公平性を毀損し、長期的に物件価値を脅かす重大な問題です。
情報閉塞と書類隠匿:住民が管理から排除される
多くの管理組合は運営過程で情報封鎖を行いがちです。よくある事例としては、理事会が議事録を公開しない、収支状況を積極的に報告しない、工事の入札過程を説明しない、修繕計画や予算の明細の開示を拒む、などが挙げられます。このような「形式的な告知で実質的に排除する」運用により、多くの区分所有者は管理運営を受動的に受け入れざるを得ない状況に追い込まれます。
例えば2025年4月には、神奈川県川崎市の中規模マンションで管理組合が長年会計報告を公開してこなかったため、住民が発見した時点で口座が長期にわたり赤字となっており、最終的に集団訴訟に発展しました。直接的な横領の証拠がなかったにもかかわらず、透明性の欠如によりメディアでは「半透明型の管理崩壊」と呼ばれました。
長期独裁と“政権”の世襲化:理事会が私物化される
本来、住民の輪番で回るはずの理事ポジションが、一部の人物による“常年連任”で占められる問題も深刻化しています。ある理事会では「自宅経験があること」や「日本語能力」など実務上のハードルを設け、事実上投資家や外国人所有者を立候補から排除する“見えない門戸”が形成されています。
冒頭で述べた「秀和幡ヶ谷レジデンス」は典型例ですが、同様の事例は築古・大規模物件を中心に多発しています。
法改正の動き
日本には700万戸を超える区分所有マンションがあり、その約2割は築40年以上です。建物の老朽化と居住者の高齢化に伴い、意思決定の停滞や修繕資金の不足といった管理上の課題が顕在化しています。今回の法改正は、意思決定プロセスの簡素化、管理の透明性向上、新たな管理メカニズムの導入を通じてこれらの課題に対処し、マンションの持続可能性を確保することを目的としています。こうした背景の下、2025年3月に改正された《区分所有法》はマンション管理の効率と透明性の向上を目指しています。
2025年の《区分所有法》および《マンション管理適正化法》の主な改正点
建物解体・一括売却:従来は全所有者の unanimity(全会一致)を要した建物解体や一括売却といった事項が、現在は所有者の5分の4の同意で実行可能になりました。共用部分の修繕決議についても、出席者の多数決で決められるようになり、全所有者の参加を必ずしも必要としません。
管理の透明性向上:利益相反の事前説明義務:管理会社が管理業務と工事発注の双方に関与する場合、所有者に対して事前に利益相反が生じうることを説明する義務が課されます。同時に、開発事業者は新築時に詳細な管理計画を作成し、引き渡し時に管理組合へ移管することが求められ、長期的な管理品質の確保を図ります。
新たな管理メカニズムの導入
外部管理人制度:管理が著しく不適切な共用部分等に対して、裁判所が外部管理人を指定して管理を行わせることが可能になり、居住環境の維持を図ります。
地方自治体の介入:地方自治体の調査・指導・調停権限が拡充され、安全上の問題があるマンションに対して住民の安全確保のための介入が行えるようになります。
民法的な“性善説”と法改正の限界
2025年3月に成立した区分所有法改正は、手続面で一部の決議ハードルを下げることで管理組合の意思決定の効率化を図っていますが、これらの改革はしばしば“性善説”に基づく想定に依存しています。すなわち、所有者が積極的に管理に参加することを前提としています。しかし実際には、多くの所有者は管理業務に関心や時間がなく、運営は少数の活動的な住民に依存しがちです。この依存が権力の集中を生み、乱用のリスクを高めることがあります。例えば、理事会が情報を独占し、住民を管理から排除するようなケースは依然として見られます。
また、決議ハードルが下がっても、実務では情報の非対称性やコミュニケーション不足が残り、意思決定の質や効率に影響を与える可能性があります。理事会が情報の非対称性を利用して意思決定を操作し、他の所有者の利益を損なう恐れは依然として存在します。
区分所有投資家への示唆
1. 1Rでも管理組合の主要書類は必ず閲覧・読み込むこと
「1室だけ買うから管理には関わらない」と考える買主は多いですが、実際には管理の結果は部屋の所有者にも直接影響します。修繕積立金の充足状況、理事会の透明性、統治の混乱が将来的な賃貸や売却に与える影響——これらは管理組合の書類から多くの手がかりを得られます。
具体的には、購入前に過去3年分を目安に以下の書類を要求・確認してください:
総会議事録
管理規約および輪番(理事)の運用規程
修繕計画と積立金残高の明細
もし理事長が長期にわたり交代していない(例:5年以上同一人物が続いている)、資金が長期間滞留して修繕が実行されていない、あるいは「入居には理事会承認が必要」といった過度に干渉的な規約がある場合は、高いガバナンスリスク物件として扱うべきです。

#2 現地観察は管理レベルを見抜く“顕微鏡”
理事会のガバナンススタイルは書類だけでなく日常の細部にも表れます。内見時に5分程度観察することを強く勧めます:
ごみ置き場が整頓されているか、違反の投棄がないか
掲示板の掲示内容が更新されているか、文面に過激さがないか
共用部に禁止事項の張り紙が過度に多いか、管理圧を感じさせる表示が密集していないか
これらは理事長の専断性、管理会社の怠慢、住民の自治参加度合いを映し出します。健全なコミュニティガバナンスは『見える空気感』として表れます。

#3 築古かつガバナンスの不透明な中大型物件への過剰投資を避ける
最近問題が頻発している物件には共通点があります:
築年数が30年超
投資家比率が高い
輪番制度が形骸化している中型物件
こうした物件では理事会が「誰もやりたがらない」状態に陥るか、特定の利害関係者に長期占有されがちで、外部業者に浸透され、キックバックや工事費の水増しといった問題が生じやすくなります。
対照的に優先すべきは、
理事の輪番が実際に行われている
管理会社が大手ブランド(長谷工、三井、野村など)である
居住者主導のガバナンスで規約が合理的かつ透明である物件
これらは将来の大規模修繕混乱や管理悪化による保有リスクを大幅に低減します。
おわりに
不動産投資は単に収益の数値を買うことではなく、共同体の一員としての権利と義務を負う行為です。理想的な投資は収益が安定し、リスクをコントロールでき、転売しやすいことにあります。そのためには賃料表だけでなく「ガバナンスの遺伝子」を見ることが重要です。
物件選びは慎重に。まずは「ガバナンスを読む」ことから始めましょう。
参考資料
https://www.mankan.or.jp/news_arc/19552.html?utm_source=chatgpt.com マンション管理サポートネット
https://wpb.shueisha.co.jp/news/society/2025/03/27/126460/?utm_source=chatgpt.com 業者からのキックバックが横行!? 「マンション管理組合」に不正がはびこる理由
https://note.com/warabi001/n/n4100d1b7b0c6?utm_source=chatgpt.com 【マンション理事会の問題】
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