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リード:西武池袋線沿線の典型的なベッドタウンである東久留米は、池袋へ直通30分の交通優位性と手頃な地価を背景に、長期にわたり実需層の注目を集めてきた。現在、駅西口の再整備と手塚治虫IPの活用という二本立ての施策がこの街の投資ロジックを書き換えつつあり、「低価格+通勤利便+IP」という複合的な価値は、専門的な投資家による精緻な検討に値する。
一、ベッドタウンからIP活用による突破へ 東久留米の発展軌跡
東久留米の発展は一貫して西武池袋線の通勤価値に紐づき、街の成長パターンは「交通主導→実需集積→生活利便整備→IPによる突破」という流れを明確に描いている。戦後の高度経済成長期における都心圏の人口流出を受け、西武池袋線の利便性が、池袋からわずか30分のこの小都市に最初の発展機会をもたらした。良好な地盤条件と手頃な地価を背景に、東久留米は次第に通勤者主体のベッドタウン構造を形成していった。朝のピーク時には7時台に17本、8時台に15本という高頻度の列車運行と、日中時間帯でも毎時8本の停車で通勤優位性が強化されている。イトーヨーカドー、イオンモール等の生活利便施設の進出により、単なる住宅地から「住みやすさ+利便性」を備えた成熟コミュニティへと進化し、特に25〜44歳の若年ファミリー層が流入した。
21世紀に入ると、少子高齢化の進行と東京都心部の再開発圧力が重なり、東久留米は活力低下の兆候を見せるようになった。1994年に整備された富士見テラスは2020年の耐震性能不足の判定により解体され、かつて富士山の眺望で有名だったランドマークを失ったことは地域の文旅資産を損なう結果となった。こうした課題を受け、交通の強みを基盤に文化IPを活用した都市更新計画が東久留米の成長突破口の中核方針となっている。


二、地価の底地化と安定した賃貸市場
Urbalyticsのモニタリングデータによれば、東久留米の不動産市場は「実需主体・価格の底地化・需要の安定」という特徴を示している。東久留米駅付近の売出し中古マンションは平均単価140万円/坪、過去約71か月で坪単価が25.64%上昇しているが、一部では値下げ調整が見られ、売出し物件の多くは2007年前後築の比較的築年数が経過した物件が中心である。

また、Urbalyticsの賃貸データでは同エリアの賃貸市況が示されている。東久留米では85戸の賃貸ユニットの平均賃料が月額7.92万円、坪単価は過去約9か月で33.33%上昇している。ただし物件の築年幅が大きく(1987〜2012年等)、1K型の割合が高い点に留意が必要で、現行の15万円台の賃料は評価レンジとしては妥当な水準にある。賃貸投資においては価格上昇と築年・間取りの市場適合性を併せて検討する必要がある。

三、富士見テラス再整備と手塚治虫IP活用の二本柱
2023年10月30日、東久留米市長の富田竜馬氏は駅西口再整備計画を正式に発表し、2031年度を目標に、インフラ整備・文化IP活用・公共施設整備を網羅する多面的な更新事業を開始すると示した。
主要プロジェクトは大きく二つの柱に分かれる:
一つ目は富士見テラスの機能再建。1994年に整備され、富士山の眺望で全国的に知られたランドマークは2020年に耐震上の問題で解体されたが、今回は同等の眺望機能を持つ駅直結の歩行動線を再整備するとともに、バリアフリー化された新たな乗降場を設置し、駅周辺の回遊性と利用者体験を全面的に向上させる計画である。
二つ目は手塚治虫IPの深度ある活用である。市は2023年9月に手塚プロダクションと覚書を締結し、手塚治虫の旧宅の利活用に向けた協議を開始した。漫画の神様と称される手塚治虫は東久留米で晩年の約10年間を過ごしており、市企画課によれば、まず建築の耐震性調査を実施した上で、手塚プロダクションと手塚家の意向を踏まえつつ、記念館の整備や旧宅の保存などの案を検討するという。順調に進めば、同線の豊島区にある常盤荘と連携した“漫画文化の回廊”の形成が期待される。
併せて周辺の生活・公園インフラも順次アップグレードされている。市内の六仙公園改修工事は2025年11月に完了し、パンをモチーフにした「こむぎ広場」は子育て世帯に好評を得ている。市は公園PFIの導入や、近郊特性に適合した新しい道の駅の設置を検討しており、東京近郊の道の駅に見られる「商業+レジャー」の複合化を参考に、地域の魅力向上を図る方針である。



四、投資価値の再定義:更新計画による短期・長期の影響
今回の更新計画は短期的期待と長期的価値の両面から、東久留米の不動産投資ロジックを再構築する可能性がある。
短期的には、市場心理と局所的需要の喚起が主な影響となる――駅西口インフラ整備の明確な計画により、質の高い賃貸物件の交渉力が顕著に高まる見込みである。手塚治虫IP活性化の期待は、小規模な民泊や改修余地のある低価格商業物件への投資関心を高める可能性がある。
長期的には、投資価値の上昇が段階的に表出する「梯度的な解放」が予想される:
第一の梯度はインフラ恩恵である。バリアフリー化や新たな乗降場の整備により、駅周辺物件の通勤利便性がさらに強化され、沿線の人気地域との価格ギャップを縮小することが期待される。
第二の梯度はIPによる波及効果だ。手塚治虫記念館が実現すれば、地域の文化観光流入が増加し、特色ある店舗や周辺の派生商品販路などの需要を喚起する。豊島区の常盤荘周辺の事例のように、文化IPは商業系不動産の賃料を15〜20%押し上げる効果を発揮する可能性がある。
第三の梯度は人口構成の改善による恩恵である。公共インフラの充実とIPの魅力増加に伴い、ファミリー層の流入が進めば、改善需要が高まり、2LDK以上の間取りの賃料・価格上昇が地域平均を上回ることが期待される。

結び:投資の位置付け、機会とリスク、展望
総合的に見ると、東久留米の投資ポジショニングは明確である――東京圏のベッドタウン市場に注力し、安定的なリターンを追求する長期保有型投資家や、ニッチな業態の機会を発掘できる専門投資家に向いている。
主な投資機会は三点に集約される:
一つ目は価格の底地化メリットで、現行の地価・物件価格は同線内の競合エリアに比べて割安感があり、評価の回復余地が存在する。
二つ目は更新による恩恵で、駅改造とIP活用は特に駅から10分圏内の実需住宅や小規模商業物件の価値向上を促す可能性が高い。
三つ目は安定した需要基盤で、池袋へ30分で直通できる通勤利便性は代替が効かず、賃貸需要の安定性が高く、マーケットショックへの耐性も相対的に強い。
一方でリスクも無視できない:
第一に、事業実行リスクである。富士見テラスの再整備工期や手塚旧宅の活用進捗には不確実性があり、投資回収までの期間に影響を及ぼす可能性がある。
第二に、IP依存リスクで、単一IPに期待し過ぎると波及効果は限定的になり得る。いわゆる「概念的な思惑」による過熱後の価格調整リスクに注意が必要である。
第三に、制度・品質リスクである。富士見テラスの耐震問題は、地域内の老朽建築の品質リスクに投資家の注意を促す。2022年の積水ハウスの耐震偽装問題に学び、投資対象のデューデリジェンスを徹底することが重要である。
今後、東京圏郊外市場の水準の分化が進む中で、東久留米が更新計画を着実に実行できれば、「単なる通勤ベッドタウン」から「IP+通勤」という二軸で差別化された特色ある小都市へと転換し、その投資価値はさらに顕在化するだろう。
【出典:東京新聞、2023、https://www.tokyonimbum.co.jp/article/6654297】
【出典:国土交通省、2022、https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/earthquake/】
【出典:朝日新聞、2022、https://www.asahi.com/articles/ASR5S5L8DR5SULFA00Z.html】(積水住宅の耐震問題関連)
【出典:東久留米市役所、2023、https://www.city.higashikurume.tokyo.jp/】
【出典:手塚プロダクション公式サイト、2023、https://www.tezuka.co.jp/】
【出典:東京新聞、2023、https://www.tokyonimbum.co.jp/article/6654297】
【出典:国土交通省、2022、https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/earthquake/】
【出典:朝日新聞、2022、https://www.asahi.com/articles/ASR5S5L8DR5SULFA00Z.html】(積水住宅の耐震問題関連)
【出典:東久留米市役所、2023、https://www.city.higashikurume.tokyo.jp/】
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