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都心5区の買い手プロファイルは全体的に上方シフトしているが3.44億円の平均問い合わせ価格は、実際の売出平均価格の半分にも満たない。
一、長期金利2.4%の下で、「都心」は再プライシングされている
東京都心アセットの価格を理解するには、その比較対象をまず確認する必要がある。時事通信によれば、財務省が4月に発行した10年国債の表面利率は年2.4%と、28年8カ月ぶりの高水準に設定された。この数字が重要なのは、すべてのインカム型不動産にとっての機会費用の下限を形作るからだ。
言い換えれば、無リスク金利が2.4%に持ち上がると、表面利回り3%しか出ない都心ビルに投資家へ残されるリスクプレミアムは1ポイントにも満たない。これは「安い/高い」の問題ではなく、当該アセットのプライシング論理がキャッシュフロー獲得から資本保全へと軸足を移しているという話だ。
海外投資家にとっては、この点を自らのリファレンスに換算しておく必要がある。中国の一線都市では商業・オフィスのキャッシュリターンはもともと薄く、「値上がりで回収」という発想に慣れている。しかし東京都心の低利回りは過剰流動性で積み上がったものではなく、2.4%の長期金利から逆算的にプライシングされている。下支えは相対的に堅い一方、伸びしろも小さい。
同時に、需要サイドは後退していない。9月4日、明治安田生命は新宿の新本社ビル竣工式で、現在約9,500億円の投資用不動産残高を2040年までに約2兆円へ倍増させると発表した。根拠は「賃料が上がっている」ことだ。国内生保のような超長期資金が都心コア資産への配分を倍増させると公言する局面では、コア資産の利回り上限は上から押さえつけられる。
この種の資金は短期の値動きを見ず、長期の賃料カーブだけを見る。いったん参入すると売却は稀だ。すなわち、都心コア駅圏の将来のフローはさらに薄くなり、個人投資家に回る案件は、多くが機関の一次選別をくぐり抜けた残余に限られる。

二、3.44億円という数字で、実際に何が買えるのか
健美家(Kenbiya)が9月4日に公表した調査は、都心5区(千代田・中央・港・新宿・渋谷)における過去1年(2025年8月〜2026年7月)の問い合わせユーザー属性を可視化したものだ。結論は端的で、この市場の買い手は全体として一段上へシフトしている。
データでは、都心5区の物件に問い合わせた人のうち年収1,500万円以上が48.8%(全国平均は27.8%)。閾値を年収2,000万円以上に上げても、都心5区は35.4%(全国は16.6%)に達する。職業構成のトップは依然として会社員(約5割)だが、会社役員は全国の16.2%から都心では21.3%へ、医師・弁護士・会計士は3.1%から5.1%へ上昇した。
注目すべきは、職業構成そのものはほぼ変わっていない点で、変わったのは同一職種内の所得分位である。すなわち、都心5区は「プロ投資家市場」になったわけではなく、依然として高給の一般会社員が主戦場だ。ただし入ってくるのは、その層のなかでも上位のごく一部だ。
差を大きく広げたのは問い合わせ価格である。会社員の都心5区における平均問い合わせ価格は3.44億円で、同職種の全国平均の5.9倍。不動産専業は最高で6.24億円(全国比6.9倍)。伸びが最も顕著なのは自営業者で、全国の0.49億円から都心では3.54億円へ、倍率は7.3倍に達した。
逆に、医師・弁護士・会計士の平均問い合わせ価格は約1.80億円で主要職種の中では最も低く、全国比も2.0倍にとどまる。彼らは都心でも郊外でも同じレンジのプロダクトを見ており、不動産取得をレバレッジを効かせた事業運営ではなく資産配分として位置付けていることがうかがえる。
興味深いのは、こうした一見高く見える数字でさえ、実際の売出市場に置くと必ずしも高くないことだ。
Urbalytics インサイト Urbalytics 内部データによると、新宿駅圏の一棟ビル売出サンプル31件の平均価格は約7.31億円、表面利回りの中央値4.27%。渋谷駅圏は55件、平均8.46億円、中央値3.40%。会社員の3.44億円という平均問い合わせ価格は、実勢の平均売出価格の半分にしか届かない。

このギャップが示すことは単純だ。いわゆる「都心一棟ビル市場」は、多くの高所得の個人投資家にとって、現時点では入り口で眺めるだけの市場である。実際に成約したいなら、価格予算に加えて譲歩項目の用意が要る。
三、新宿・渋谷・東京駅:同じ「都心」でも三様のプライシング
都心5区をひと括りに語るのは、分析上は手早いが誤りやすい。Urbalytics の駅圏統計では、代表3駅の答えはまったく異なる。
新宿の表面利回り中央値は4.27%。サンプル31件、平均価格7.31億円、年間賃料収入は平均約3,421万円。三者の中で最も利回りが高く、すなわち市場が新宿アセットに求める要求利回りが高いということだ。歌舞伎町周辺のサンプルでは表面利回り6〜7.8%も見られるが、その代わり築年は1960〜1980年代が中心となる。
渋谷の中央値は3.40%まで低下する一方、サンプル数は新宿のほぼ倍(55件)、平均価格は8.46億円。利回りは低く、サンプルは多く、単価は高い——この三点が同時に現れるときは、通常、資金がこのエリアを優先的に取りに来ているサインであって、エリアが悪化しているわけではない。
ただし渋谷内部の分化は最も顕著だ。道玄坂周辺の一部サンプルは表面利回り10%超もある一方、猿楽町・松濤など住宅色の強い地点は4.5%前後。同じ駅名の下で、実際には商業動線と住宅街区という二つの異なる市場が一つのラベルを共有している。
東京駅圏のサンプルは3件にとどまり(件数が少ないため参考値)、中央値は2.65%。この水準は前述の2.4%国債に接近しており、リスクプレミアムは約0.25ポイントまで圧縮される——通常のインカム投資というより、長久期債の物的形態に近い。

四、需要側の分岐:高所得者が「区分」から「一棟」へ移る理由
健美家の調査には、投資家が注目すべきもう一つの示唆がある。アセットクラスの選好は、所得帯の上昇に伴い構造的に切り替わる。
年収1,000万円帯の会社員では、64.2%が区分マンション(単体住戸)を問い合わせ、医師・弁護士・会計士は55.2%が区分だ。だが年収5,000万円を超えると、一棟ビルや一棟マンションといった大型案件の比率が8割前後まで上昇し、区分の比率はおおむね1割前後に落ちる。
このスイッチの根本理由は単純だ。区分の問題は利回りそのものではなく、規模の上限と資金調達効率にある。都心の高級区分は1億円超が当たり前だが、得られる賃料キャッシュフローは限られ、土地持分は希薄化し、銀行評価は一棟案件と同じ土俵にならない。
年収5,000万円超の層では、嗜好はさらに二派に分かれる。
第一に、会社員(56.9%)、自営業者(55.5%)、不動産専業(64.8%)はいずれも一棟ビルが主流。商業賃貸契約がもたらす賃料の伸縮性と再評価余地を狙う一方、空室や修繕のボラティリティが大きいという代償を受け入れる。
第二に、会社役員(39.2%)と医師・弁護士・会計士(52.9%)はむしろ一棟マンションが最多。住宅賃貸契約はキャッシュフローが安定し、管理の手間も小さいため、本業多忙で不動産を資産配分として持ちたい人に向く。
不動産専業の選択は最も一貫している。年収1,000万円帯の45.5%から5,000万円超の64.8%まで、一棟ビルへの集中度は一貫して上がる。すなわち、この業で飯を食う人ほど分散せず、これ自体が商業ビルというアセットクラスへの投票となっている。
もう一つのディテールとして、自営業者(25.5%)と会社役員(22.9%)は、年収5,000万円超でも2割超の区分問い合わせを維持している。対応する平均単価はそれぞれ約0.97億円と1.52億円——高額区分は都心で大口資金に完全に見放されたわけではない。

五、今後の見通しと投資示唆
これら三つの線を重ねると、都心5区の2026年下半期の風景はおおむね明瞭だ。資金面では、生保など超長期資金の配分倍増の意思が明確で、コア資産の利回り上限を継続的に押し下げる。金利面では、2.4%の長期金利が下から突き上げ、低利回り資産の安全余地を薄くする。両者に挟まれた結果は、価格は上がりやすく下がりにくい一方、利回りの改善余地はほとんどない、というものだ。
個人投資家にとって本当に修正すべきは期待のアンカーである。3.44億円は全国では大金だが、都心コア駅圏では平均価格の半分にすぎない——この市場に入るなら、築年・立地・規模のいずれかの譲歩をあらかじめモデルに織り込むか、利回り4%超が残る駅圏に目を向けるかのどちらかだ。
この観点から見ると、新宿4.27%と渋谷3.40%の0.87ポイントの差は、そのままプライシングの明細である。市場が「より良い立地と新しいビル」に対して、どれだけの利回りコストを支払う意思があるかを示している。自分がこの線のどちら側に立つべきかを判断する方が、都心が高いか安いかを論じるより遥かに有益だ。
リスク注意 賃料サイドには注意が必要だ。Urbalytics の一棟ビル・オフィス募集データでは、新宿駅圏の中央値㎡賃料は約0.865万円、渋谷は約1.039万円だが、新宿の直近4四半期の坪単価トレンドは-15.4%(サンプル16件のみの参考値)。すでに利回りが3〜4%台に圧縮されている局面で賃料が本当に軟化すると、価格のクッションは極めて薄い。また、築1960〜1980年代のサンプル比率は小さくなく、修繕・耐震コストは事前にモデルへ織り込む必要がある。
結論として、都心5区は「高い/安い」で一括りにできる市場ではない。買い手を資金規模で自動的に階層化する市場である。論点は「都心を買うべきか否か」ではなく、自分の資金量がどの層に当たるか、その層の現在のプライシングは妥当か、である。発注前に駅圏の利回り分布・賃料相場・実際の売出サンプルを一望したい場合は、Urbalytics上で比較を一度回してみるとよい。
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参考情報
- 健美家株式会社「【都心5区・不動産投資検討者の実態調査】検討者の約半数が『年収1,500万円以上』、会社員の問い合わせ平均価格は全国比5.9倍の『3.44億円』へ。」2026年9月4日 — https://www.kenbiya.com/ar/ns/research/kenbiya_report/10494.html
- 時事通信「明治安田、不動産投資倍増へ」2026年9月4日 — https://news.yahoo.co.jp/articles/15cad469dfbbbc73bab8aef01348cfbcef5c4866
- Urbalytics(urbalytics.jp)売出・賃貸募集データ集計(一棟ビル利回り・賃料統計・2026年9月時点) — https://www.urbalytics.jp




