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浅草寺は、東京都台東区に位置する日本最古で最も有名な仏教寺院の一つです。東京の文化的象徴であり、観光のランドマークとして、浅草寺は毎年数千万もの参拝者や観光客を惹きつけ、日本の伝統文化を体験する場となっています。寺の前に掲げられた雷門の巨大な赤提灯は、誰もが撮影する代表的なフォトスポットです。日本の観光業が本格的に回復する中で、浅草エリアにおける宿泊需要も急増し、旅館・民泊市場の活況を後押ししています。旅館営業許可付き物件の価格も過去最高水準を記録しています。
一、日本観光業の回復と浅草の人気
近年、世界的な観光業の回復に伴い、日本は最も注目される旅行先の一つとなりました。2024年には、日本は過去最多となる3,686万人の外国人旅行者を受け入れ、パンデミック前の2019年の3,190万人を大きく上回り、約16%の増加を記録しました。首都・東京はその玄関口として多くの旅行者を惹きつける中、浅草寺は代表的な観光地として、訪日客の「必訪スポット」となっています。
旅行者の急増により、浅草エリアの宿泊需要は大きく拡大しました。2024年、東京のホテルの平均客室単価(ADR)は26,000円を超え、コロナ前と比べて50%以上上昇しています。浅草のような人気観光エリアでは、ホテルや民泊の稼働率が高止まりし、ピークシーズンには予約困難なケースも珍しくありません。
二、宿泊需要が後押しする民泊市場の活況
急増する宿泊需要に対し、従来のホテル供給だけでは対応が難しく、民泊や小規模旅館が新たな選択肢となっています。浅草エリアの民泊・旅館は、その立地の良さから観光客に高い人気を誇っています。
宿泊需要とADRの上昇に伴い、浅草における旅館営業許可付き物件の価格上昇も勢いを増しています。過去2年間で、旅館営業許可付き物件の価格は右肩上がりに上昇しており、築年数の古い建物や構造の老朽化した物件でさえ、「旅館許可」や「浅草駅徒歩○分」というタグだけで、コロナ前の市場価格の2倍以上で売り出されるケースも見られます。これは、短期的な高稼働・高収益を見込んだ地域の不動産に対する期待の表れですが、一方で実勢価格が資産の基本価値から乖離しつつあるリスクにも目を向ける必要があります。
三、熱狂だけで支えられる浅草旅館不動産は持続可能か?
まず、旅館物件価格の急騰は「満室・高単価」を前提とした収益モデルに基づいていますが、このモデルが長期的な安定性を備えているとは限りません。2024年の外国人観光客数は確かに過去最高を記録しましたが、観光業は世界経済、為替、地政学的リスクなど多様な要因に左右されます。訪日ブームが一時的に落ち着いた場合、稼働率やADRが下がることで、収益も大幅に縮小し、高値で購入し、高収益運営を前提に資金繰りを設計した物件は、すぐにその脆さが露呈する可能性があります。

2023〜2025年度 浅草エリア宿泊施設の月別稼働率
次に、投資利回りの観点から見ても、浅草の旅館物件は市場の盛り上がりと共に「年利回り10%以上」といった広告文句で訴求されがちですが、実際の運営に入ると、想定よりも大幅に下回るケースが多くあります。
- プラットフォーム手数料:Airbnb、Booking.com、Agodaなどの短期レンタルプラットフォームは、約15%程度の手数料を徴収しており、これはホストの収益から直接差し引かれます。
- 清掃関連コスト:日本のサービス業における人手不足の中、清掃や運営スタッフの安定確保は困難です。小規模旅館であっても、チェックアウト後の清掃・消毒、シーツ交換、ゴミ処理などは外部業者に委託せざるを得ないことが多く、20平米程度の標準的なダブルルームでも、1回あたり4,000〜7,000円程度の清掃費がかかります。
- エネルギー・消耗品費用:Wi-Fi、水道光熱費、トイレットペーパーやアメニティなどの日用品も固定費として発生します。特に冷暖房を多用する夏・冬は、運営コストが跳ね上がります。
- 運営管理コスト:宿泊者からの問い合わせ対応、チェックイン・チェックアウトの案内、トラブル対応などの運営業務にかかる手間も無視できません。代行会社を利用する場合、収益の20%前後の運営費が発生します。
これらの要素を踏まえると、「年利回り10%」と謳われる物件でも、実際の手取り純利益は5%以下にとどまることもあります。物件価格が高騰している現状では、そのリターンが投資リスクや回収期間に見合うかどうかを、購入前のシミュレーション段階で慎重に検討すべきです。
さらに、浅草エリアの宿泊物件市場は競争が非常に激化しており、多くの機関投資家も新規開業を進めています。中規模以上のプレーヤーが参入し、価格競争が常態化しています。差別化された空間設計、良質な運営体制、安定したスタッフチームがなければ、単に「立地が良い」だけでは選ばれにくくなっています。特にAirbnbやTripAdvisor、Google Reviewsのように評価スコアが可視化・検索順位に直結するプラットフォームでは、レビューの点数が予約率や収益性に直結します。

台東区2022〜2025年度 宿泊施設数(民泊・ホテル・旅館等を含む)
四、不動産投資の安全弁:「物件自体の価値」を見極める
賃貸型不動産は、店舗、旅館、オフィスなどどのような形態で運営される場合でも、物件そのものの価値を見誤ってはいけません。運営シミュレーションを行う際には、観光のオフシーズンや、旅館運営が継続困難になった場合でも、住宅や商業不動産として転用可能かどうかを考慮する必要があります。これは長期的な価値が備わっているかどうかを判断する重要な視点です。
さらに言えば、不動産の長期価値を見極めるには、「旅館営業時の収益モデル」だけに依存せず、「Bプラン」の存在も前提にすべきです。成熟した投資家であれば、購入前に必ず自問します——「この物件が旅館として使えなくなったとき、他にどんな用途があるか?」
この点において、物件の基本的なスペックや、地域の平均賃料水準は非常に重要です。柔軟な用途が見込める物件であれば、短期的に旅館収益が期待以下であっても、住宅、オフィス、ギャラリー、カフェなどに転用でき、資産としての安全弁が確保されます。一方で、旅館用途に特化してリノベーションされた物件、間取りがいびつな物件、窓がない、築年数が古い物件などは、旅館以外の用途への転用が困難で、売却も難しく、いわゆる「低流動性資産の罠」に陥るリスクが高まります。
五、まとめ
浅草旅館不動産の現在の高い注目度は、日本の観光市場の回復とその将来性を反映しています。しかし、物件の使用価値や運営実績から大きく乖離した価格水準が続けば、バブル的なリスクも無視できません。投資家は短期的な熱狂に惑わされず、基本に立ち返り、運営力・実質的なリターン・リスク管理の視点から多角的に評価する必要があります。
短期的な人気があっても、真に保有すべき不動産とは、長期にわたって安定したリターンを生み出せるポテンシャルを持つ物件であるべきです。
データ出典:
- AirDNA “Submarket Performance Report” 台東区
- Urbalyticsエリア分析:浅草、物件タイプ:一棟収益物件