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晴海FLAG(フラッグ)――かつて東京オリンピックの選手村として注目されたこの大規模住宅開発が、現在では投資家たちがこぞって参入する投資対象となっています。今年3月、ある投資家が7,000万円で購入した物件を、わずか1年足らずで1億5,000万円で売却し、その間取りとしては一時的に最高値を記録しました。しかし、この価格はすぐに市場の新たな「基準値」となり、今後の同タイプの取引価格はこれをさらに上回る可能性があります。
この熱狂の背後にある不動産取引――果たして本当に信頼できるものなのでしょうか?急激に上昇する価格に対して、賃料収入はそれを支えられるのでしょうか?将来的な値上がりは見込めるのか?金利上昇の予測や賃料の伸び悩みを背景に、この投資ゲームにこれからも参加し続けることはできるのでしょうか?
1.晴海FLAGはなぜ突然「投資の楽園」になったのか?
晴海FLAGは、旧東京オリンピック選手村の跡地に位置し、東京都が主導して開発したプロジェクトで、昨年3月末にすべての住戸が引き渡されました。複数の板状高層マンションで構成されたこの大規模コミュニティは、もともと五輪期間中に選手の宿泊施設として使用され、その後、居住改善型の新築マンションとして一般販売されました。ところが、コロナ禍以降、この物件は思いもよらぬ形で資本プレイヤーたちの投資競技場と化しました。
通常、自治体主導の分譲住宅では、法人による購入禁止、転売禁止、転貸禁止といった投機抑制の規制が設けられるのが一般的です。しかし、晴海FLAGではこれらの規制が驚くほど緩く、実質的に「青信号」が出された形となりました。加えて、分譲時の価格設定も非常に魅力的でした。1坪(3.3㎡)あたり約300万円という価格は、周辺の新築マンションと比べて3割程度安く、これが投資家たちを一気に引き寄せたのです。ある棟では1戸に対し266人が応募するなど、バブル時代を彷彿とさせる倍率が記録されました。
NHKの調査報道によれば、特定の棟では法人購入の割合が4割に達し、ある個人投資家は一度に6戸も購入したといいます。もはや自住目的の購入とは言い難く、投機性が色濃く表れているのが現状です。
2.価格は2倍に、でも賃料はそれについていけるのか?
主力の間取り(70〜100㎡)で見てみると、分譲当時の価格は1坪あたり約300万円でした。ところが、わずか1年で中古市場では1坪あたり500万〜800万円という水準まで高騰しています。冒頭で紹介した7,000万円の物件は、現在1億5,000万円超で成約され、同じ棟の別の107㎡の大型物件では2億7,000万円という希望価格まで提示されています。このような価格帯は、単なる「高嶺の花」ではなく、もはや実需よりも投資・投機が主目的となっていることを示しています。

晴海エリアのマンション賃料推移、単位:万円/坪
しかし、こうした物件を貸し出そうとしても、現実はそう甘くありません。現在、晴海FLAGの賃料はおおむね1坪あたり1.7万〜1.8万円程度で、27坪(約90㎡)の住戸で月額45万円、30坪で約58万円となります。
問題は、このエリアが都内でもトップクラスの立地ではなく、交通の便にもやや難があり、周辺の生活インフラもまだ発展途上であるという点です。そのため、エリア全体の賃貸需要はもともとそれほど高くありません。
現地の不動産仲介業者によると、転売された物件の多くは、取得価格の上昇に伴って貸主側の賃料希望も引き上げられており、高額での賃貸募集が増加しています。しかし実際には、半年以上も借り手が見つからないケースが珍しくありません。高値で購入したあなたが貸主になった場合、その賃料期待と空室期間が果たして投資全体を支えられるでしょうか?

晴海エリアのマンション賃料推移、単位:万円/坪
3.利回りを冷静に再計算――投資家の楽観はいつまで続く?
投資としての収益は、「運用収益(賃料)」と「キャピタルゲイン(売却益)」の2つに分かれます。いくつかの例で、実際に試算してみましょう。
ケース①
- 面積:75㎡(約23坪)
- 購入価格:1億5,800万円(坪単価:約689万円)
- 想定賃料:坪あたり1万8,000円/月 → 年間賃料:約450万円
- 表面利回り:3.14%
ケース②
- 面積:107㎡(約32坪)
- 購入価格:2億6,800万円(坪単価:約826万円)
- 想定賃料:坪あたり1万8,600円/月 → 年間賃料:約715万円
- 表面利回り:2.7%
注意すべきは、これらの利回りは管理費・修繕積立金・固定資産税などのコストを差し引く前の「表面」利回りである点です。実質利回りはさらに低くなるため、賃料収入だけで投資回収を図るのは、現在の市場環境ではかなり厳しい状況です。
それでは将来の転売による利益に期待できるのでしょうか?
仮に、ある物件を1億円で購入し、年間賃料が450万円、つまり表面利回りが4.5%だとします。
- 将来、買い手が3.5%の利回りを許容するなら、売却価格は1億2,857万円
- 2.5%なら、理論上の価格は1億8,000万円
- 極端な話、**0.5%**の利回りでも構わないなら、9億円まで価格が跳ね上がる可能性があります
このロジックの根本は、「高値で購入して、将来さらに低利回りでも買ってくれる人が現れる」ことに賭けるというものです。しかし、このゲームは果たしてどこまで続けられるのでしょうか?
現在、日本銀行はすでに利上げのシグナルを発信しています。金利上昇の流れの中で、円安を背景に積極的に参入していた海外投資家も、今後は一時停止ボタンを押すかもしれません。
より現実的な問題として、日本の賃貸市場はもともと貸主にとって好条件ではなく、月額50万〜100万円の家賃を払う層は非常に限られています。さらに、現在は期待される家賃水準での成約事例すら少なく、今後の賃料上昇を期待するのは、もはや幻想に近い状況です。
4.結びにかえて
晴海FLAGは、日本の都市再開発の象徴であると同時に、現在の不動産市場の論理を映し出す「鏡」でもあります。その資産価値の上昇は目を見張るものがありますが、その裏には低い賃料利回り、上昇する金利リスク、需給のミスマッチなど、見過ごせない課題が潜んでいます。
晴海FLAGは、日本経済がポストコロナの時代にデフレから脱却し、正常なインフレ経済に向かう過程を象徴するプロジェクトでもあります。東京不動産市場、そして日本経済におけるその意義を否定することはできません。しかし、同時に私たちは理解しておくべきです――ババ抜きのゲームは、いつか必ず終わる。不動産価格は、単なる転売益だけでは維持できません。最終的には、持続可能な収益構造に立ち返る必要があるのです。
データ出典:Urbalyticsマンションデータ検索(晴海エリア)
https://www.urbalytics.jp/an/area